てのひらを、かえして

知的怠惰の集積地よりお送りする、手斧と料理のふんわりブログ。

ブログのハードルを下げていけ

こないだから自分のインターネット視野内でちょろちょろと目に入ってたアウトプットの話について思うところがあったので書いていく。
私は再放送が好きなので何回同じ話をしてもらっても割と構わない。同じ映画を何回も見ていた時期もあるし、好きな本だと何回も何回もよみなおしている。たとえば秋山瑞人E.G.コンバット2巻の「生命の質量」でアイが帰り道が分かると告白するシーンからトレンディ教団をぶっ倒せと小隊全員が唱和するシーンなんて読み返しすぎてて、ここのところを思い返すだけで割といつでも泣けます。そうそう、FSSの18巻、ミヤザが皇帝のコートを握りしめながら崩れ落ちるシーンいいですよね。あそこも何回読んでも泣けてしまう。
実は人間は知ってる情報に再度触れることが大好きだったりするので飽きられない程度に頻度を工夫すれば同じ話を何回もしていいとおもう。人間普通に生きてるだけで歳をとりますからね。エイジング(本来の意味)が進んで別角度でものを見るようになるかもしれないし。

んでこの別角度の話なんですけど、同じことについて書いている記事で、ああもうあの人が書いているからいいや、っていうのはもったいないんですよ。こちとら他人の感想を啜りたい妖怪としてはね。人によって本当に味が違ってくるから。技術系のブログとかわかんないとこに生きているんだけど、ゲームの攻略情報なんかでは、正攻法とかこれが簡単みたいなこう攻略方法が全然再現出来なくて、ある時ふっと読んだ誰かのプレイ記録なんかで「こういうことかぁぁぁぁ!」が急にやってくることがあるんです。たまたまだけど私には刺さる、そういうことは割とあると思っています。去年このブログで子供の水筒を洗うのが面倒くさいという記事を書いたら賛同してくれる人が結構いて、嬉しくなったことがあります。どこかの誰かが同じことを思っているというのは嬉しいものです。

言いたかったことはこのくらいです。前々から言ってるけどはてなブログ運営はサービス内だけでもいいから新着記事をdigりやすくなるような機能をつけて欲しい。おとなりブログ機能は素晴らしいけども少し幅を広げて欲しい。「次に読みたいブログ」はまんま「注目されている記事」なのをやめて、なんか他の軸で探してきて欲しい。以上です。

夏の怖い話(体験談)

高血圧ですのでね、塩分を控えよう控えようとしていたんですよ。この時期でしょう? 暑い暑いと汗が出るのに任せてついついスポーツドリンクを取りすぎて塩分過多、さらにとんでもない高血圧へ、なんて聞きますのでね、それだけは避けようと、炎天下仕事をしながら基本的に水、もしくは麦茶でなんとか凌いでいたんですよ。

するとね、だんだん起床時に違和感があるんですよ。なったことがある人にはわかってもらえると思うんですけどね、寝ながらにして足が攣る時って必ず寝ながらその予兆に気づきつつでも眠たいなあ足が攣りそうだなあでも眠たいなあって夢現でいるうちにある瞬間、ピキッ! と指先だったりふくらはぎだったり太ももだったりが攣ってもんどり打ちながら痛みに耐えておさまるのを待つことになるんですよね。で、その予兆、予兆がね、朝から必ずしてたんですよ。で、予兆があるから目が覚める。目が覚めたら余計に足が攣るのが嫌でそのまま起きあがっちゃう、おそらく寝汗で脱水してるんじゃないかと台所まで水を飲みにいく、飲みに行ったらもう起きちゃうわけですよ。それでだんだんと起床時間が早くなっていたんですけどね。そんな生活をするうちに寝る前も微妙に足が攣るような気がしてきてですね。まあ寝るのは寝るんですよ。眠いからね。

それでね、私、こないだ晩酌の後にどうしても食べたくなって深夜に袋ラーメンを作って食べたんです。もう気にもせずに知るまで全部飲み干してね。もうこの頃には日中に作業してて体を捻ったらそのまま脇腹が攣りそうになってたんですよ。それでまあラーメンをね、袋ラーメンを思いっきりいただいてそのまま寝ちゃったんです。もちろん歯磨きはしてますよ。そうしたらですね、次の日、ピタリとあのずっと続いていた「攣り」の予感が消えちゃったんですよ。いやあ怖いですね。どうも塩分が不足していたみたいで、異常が出ていたみたいです。というわけで仕事中に食べる塩タブレットを昨日買いました。なおこの記事は個人の感想です。こんな記事やなんならネット上の医療記事なんかは信用せずちゃんと医療機関にかかりましょう。

味噌汁沸騰の話

味噌汁を沸騰させてもいいんじゃないかという記事を以前に書いたが、沸騰味噌汁の件でインターネットが騒がしかったので書いてみる。

香りへの感度と、旨味に対する感度がどちらが優位かという肉体の部分と、味噌汁を味わう際の文化的な差異があるとおもう。
結論なんてこんなもんみんな違ってみんないいになるわけで、その中から自分はバカパクの7・5とかシブ知の4・9みたいなポジションを宣言していくしかないのだけれども、他人がどう感じ、どう味わっているのかということを考えずして美味しい料理を提供したことにはならない。家族内だと同じものを食べつけているので好みは似通ってくるものだけれども、甘めの味付けを好むもの、魚と肉のどちらを好むのかなんてのは変わって来やすい。

いつぞや味噌汁の話を(しかもこれは沸騰させるかどうかの記事ではない。)した時に灰谷健次郎 著 「きみはダックス先生がきらいか」の例を挙げたがここでは鰹節と昆布の合わせ出汁を使用していたし、先日からハマって読書&アニメ鑑賞していたアニメ「氷菓」〈古典部シリーズ〉では煮干出汁の味噌汁だった。煮干だしは鰹節や昆布と違って煮出していくのでやはり旨味が強いポジションにいると思われるし、臭みを嫌って沸騰前に引き上げてしまう鰹節や昆布だしは香りの方のポジションだろう。出汁材に関しては地域性が強く、その土地で取れるものや物流上豊富にあったからとか地域によってさまざまに事情があって決まってくるものだ。

そこに各地域折々の味噌があって赤味噌白味噌麦米大豆、仕込み期間も何ヶ月というものもあれば数日というものもあって、下手するとちょっと前まで各家庭で味噌を仕込んでいたりする。もうこの時点でもまとまりようもない。

具だってかなり違う。おれはミズイモの味噌汁が好きだが、ジャガイモを少し角がまるまるくらいまで煮た味噌汁やよく煮込んで汁がとろっとしてくる味噌汁と香ばしさと食感のお麩の味噌汁とではまた合う汁のベースも違ってくる。つまり一言で味噌汁といった場合に個々人が想起するイメージも、実際に食べているものも千差万別でありめちゃくちゃに幅が広くてグラデーションがとてつもなく広がっている。そんなのを一概に片付けようとすることが土台無理なのだ。

それでも大雑把に括って話をするなら、やはり香り偏重のスタイルと旨味偏重のスタイルが大雑把にあるように思える。沸騰すると損なわれる香りというのはもちろん確かにあって、それを好む人間からは沸騰を許せないということだろう。それはそれでしかたがないし、雪がちらつく中作業して体が冷えきって昼食を取りに入った現場事務所で、IHヒーターの上に置きっぱでしばらく煮立っていたであろうしょっぱい味噌汁が、妙に美味しく感じられたのを忘れられない者もいるということであって、みんなもっと他人の事情や環境、来し方みたいなもんに想像力を持って曖昧にやっていけやと思う次第であります。

素麺開きと食卓の光景

昨日はとうとう素麺を解禁した。ウチで素麺となると、一般的な素麺の食卓と風景が違う。というのも、小さいうちは好物ばかり食べるのもあって、栄養バランスのためハムやきゅうりを千切りにしたり錦糸卵を添えたり、トマトを切って出したりしてきたのだ。ウチではこれが当たり前の食卓だが、いつか子供達は家庭の外でシンプルな素麺を食べて驚くに違いない。

昨夜は豚の冷しゃぶサラダにトマト、大葉と茗荷を加えて食卓に出した。冷しゃぶはめんつゆでもうまい。素麺は揖保乃糸である。それ以外の貰い物ノーブランド素麺を出した際に上の子からいつものと違うと怒られていらいずっとそうだ。昨日のはさらに昨年買い溜めて余った未開封のをそのまま保管していたビンテージ品である。ひね物とかあるらしいしうまかったバズである。6束が1食で消えた。ちなみに豚しゃぶもA3くらいある大きめのスチロールトレイに入った¥99/100gの切り落としをほぼ全て使った。冷しゃぶサラダにはレタスときゅうりを使ったが、レタスの外周の葉は一旦湯に通して皿のへりに丸めて置き、内側の葉は刻んできゅうりと混ぜて敷いてある。湯通ししたレタス美味しい。いくらでも食べられそう。

下の子は素麺が苦手で食べたくないというので、仕方なく一部の豚肉を拝借して他人丼を作った。他人丼を食べながらモリモリと豚しゃぶも食べていた。そのうちに「素麺もちょっとほしい」と言い出してタレにもつけずに啜っていた。食後に「今度から素麺も食べるので自分の分も用意してほしい」と言い出した。他の家族が美味しそうに食べるのを見て食欲が湧いてきたのだろう。いいことである。でもこれ多分当人は素麺も食べるけど何か丼ものも食べるつもりだよな。まあいいよ。多分これも我が家の新しい食卓の光景として定着していくに違いない。

初夏の枝豆と近況報告。

繁忙期が過ぎたので少しずつ再開していきたい。こういうのはスモールステップがよろしい。
健康面から言うと、血圧は薬を飲みつつ一進一退というところである。血液検査で尿酸値を指摘されて薬が追加されたのだが、さすがは泌尿器科である。一般的な薬ではなく、腎臓に負担がより少ない方をチョイスしてくれた。それはいいのだが、門前以外で処方してもらおうとすると取り寄せになると三軒たらい回しにされてしまった、だいたい窓口に出てくる薬剤師の顔で区別がつく。ものすげえ申し訳ななそうな顔でやってくるのである。一回など疑義照会せねばならぬとまで言われてしまった。誠に申し訳ない。

夏場なので今年も無事枝豆を始めた。先週末は二回やったが、道の駅で枝についたままのを買ってこないとあの風味は出ないと確信した。スーパーの切り落として袋に入っているのは諦めた方がいい。枝付きのを両端切り落として塩で揉んでお湯にダイブ! さらに追っかけて塩を投入したのを5分茹でてイナフ。あっついのをそのまま口に入れて青臭く、いかにも夏という風情の枝豆だ。たまらん。皆も今週末やるといい。レシピは他のサイトで見てくれ。

水筒パッキン解決法

今日は皆に善い知らせを持ってきた。皆というのは日々水筒に麦茶をみたし、夜にはまたその水筒のパッキンを外して食洗機に飲み口とそのパッキンをかけて本体は手洗いするもの達のことである。
善い知らせとはパッキンを食洗機で洗うのにちょうどいい容器が見つかったということである。今までにこれら水筒のパッキンを洗うのに、食洗機の箸置きに入れたりザルを試したりしてきた。食洗機の箸置きは一見良さそうな置き場に見えるがさにあらず、洗い終えた頃には奥の方に沈み込んで取り出しづらいことこの上ない状態になる。私の太い指ではなおさらだ。だからと言って取り出すのに他の箸を汚すのは本末転倒であり、これは却下とした。次に思いついたのが食器・料理器具売り場にある小さいザルだ。これは丸型、角形ともに試した。これはかなり正解に近い。十分に水流にさらされ洗いもいいし取り出しやすい。しかしながらこのザルはいかんせんスペースを取るのでパッキンを洗うロットの食洗数が下がってしまう。その上に時々はパッキンが水流に弾かれて食洗機の排水網に引っかかることもしばしばあり、清潔なのか不潔なのかよくわからない

最初はアジコ釣りに使うサビキのカゴを使えるのではないかと物色していたが、流石に錘の部分が謎の金属でできており、強いアルカリ性に曝される食洗機内部では不味かろうとやめてダイソーをうろうろしている時にアウトドアコーナーで俺はそれに出会った。

たまごケースだ。

なんじ迷えるものよ100均に行き、アウトドアコーナーを目指すのです。
キャンプなどで使用する卵を割らずに持っていくための製品で、他のケースと違ってケース自体が網状になっている。これによって食洗機の水流を中に入れたパッキンに通すことができる。
これだ。これのおかげで今はとても快適な水筒のパッキン洗浄ライフを送っている。

ただ問題はこれもう廃盤商品っぽいんだよな……紹介しようとして製品サイトを散々探したんだけどネットから買える窓口もなさそうだし。

ちなみに今年から水筒を新調して容量を大きくしたのでもちろん麦茶ポットも新調して3.0Lが入るものにした。もうこれより大きいポットはない。

短編小説の集い 2025 参加にて候

「短編小説の集い2025」参加要項! - あのにますトライバル

【お名前(HN)】

あんみんななまい

【執筆歴】

高校〜大学あたりで葉鍵の二次創作にいそしんでおりました。

【ひとこと自由欄】

負けインはいいぞ。

【作品名/字数】

元庵診療録〜効きすぎに候〜(3269文字)

【本文】

「御免、先生はご在宅か?」そう言って診療所に若い侍が入ってきたのはその日の夕刻のことであった。
「先生、患者さんだよ」と小者の仁助が呼ぶので向き直ると、長屋の一角を借り受けた診療所の入り口、土間口に若い侍が立っていた。顔を顰め膝の上に手拭いを手で押さえている。おそらくは仕官しているであろうと月代の伸び具合と身なりから医師・元庵は判断した。
「先生は蘭方を修めておいでで、外科も達者であるとお伺いしている。どうか内密にこの傷を診てはもらえまいか」そう言って押さえていた手を放し、巻いていた手拭いをのける。見ればまだ血も止まらぬ金創であった。膝の皿の上に脇差でも突き入れたものらしいが、傷口がいくらか乱れて肉が見えており、それが故に血が止まらず難儀したので、痛む足を引きずって現れたのだ。
となればこれは面倒だな、と元庵は考える。
「お侍さま、内密と申されましてもこの傷では些か御身とその事情についてお伺いせねばなりますまい」
金創、つまり刀傷となれば、必然斬ったものと斬られたものがいることになる。となれば事件として公儀の取調べが無いとは言えず、また傷を負ったものが被害者かというとそうではなく、手傷を負ったが、首尾良く憎き相手を討ち果たしたということだってある。そんな男を傷があるからと治療しておいて、はてどこの誰だかわかりません、では済まない。お白洲に引き摺り出されて、「手前。医師、元庵。刃傷に及んだものと気が付かず、刀疵の治療を行い、またその旨奉行所に申し上げずにおいたのは不届千万、よって手鎖申しつける。ということもなくはない。治療を加えることはやぶさかではないが、せめて後に申し開きができるくらいには聞き出しておかねばならなかった。
「いやこれは某が脇差の手入れの折に手元が狂って」すこしは考えて来たものらしい言い訳を若侍が口にする。
「傷口が違うております。突き入れたのちに右左と捻らねばこうはなりませぬ」
傷口から目を離し、侍の目を見る。まだ若い、出仕を始めて見習いからようやく一人前になったと言うところであろうか。



周囲に人がいないのを確かめ、眼を伏せ気味にして若侍がポツリポツリと身の上を話し出す。
「拙者は苅野藩士で名は桐野 忠篤と申す。先生のお診立てどおり他人に刺されたもの、それも申し開きしにくい相手にござる」
聞くところによると桐野と名乗るその若侍は出納を司る役どころとして藩邸に詰めているのだという。
勤番の年のうちはよかったのだが、殿が国元に帰ると留守居役の何某が幅を利かせ、お役目であるとの名目で他藩の同じ留守居役と宴席三昧の毎日なのだそうな。昼間から酒の匂いをさせながら藩邸に現れ、此度は宴を開くこととなった、ついてはどこどこの店の席をとっておけだの部屋はこれこれの格はないといけないだの土産も持たせねばならないからどこそこの店に走れだのと勝手気儘に振舞っているという。
「しかしだな、各藩の留守居とはそういうお役目だとも聞くし、かといって辞めさせれば御城で
困るのは藩主とも聞きまするが……」
「はい、拙者としてもそうしたお役目であるとは聞き及んでおります。しかしながら、しかしながら恥を忍んで申し上げまする。この傷にてござりまする。」
留守居仲間を藩邸に招いての宴の最中、座興と称して桐野の脚に小刀を突き入れたのだという。留守居役同士の付き合いにあまりにも費えがかかるため、苦言を呈したのがけしからぬというのだ。
「拙者にも落ち度はあるのやもしれぬ! だが座興としてなぶる事はなかろう! 居並ぶあの者たちのニヤケ面がどうにも許せぬ!
傷の痛みに興奮しているのか、若侍が激する。
「お侍さん、声を落としなせえ。長屋の壁は薄うござりまする。となりどころかその向こうにまできこえっちまいますよ」
見かねた小物の仁助が割って入る。
「しかし、拙者は、拙者は」
よほどに悔しい思いをしたのであろう。顔をゆがめて嗚咽をこらえ、土間に一つ二つと黒い跡がつく。
「やっとうのほうも得手ではなかろう、よしんば本懐を遂げてもよくてそなたは切腹、いや斬首となろう」
「かまいませぬ。拙者だけの話ではないのです。先生もお医者であられるのならば病を征すのに強い薬を用いられられることもございましょう。わが藩も同じこと、かの奸物を除くのに必要であれば刃という劇薬を用いるまでです。」
彼を宥めるように言う。
「そうでもない。随分と重いように見える病でも、その源を見抜いてふさわしい薬を用いれば見違えるように軽快することがござる。私の見立てではこの病、膏薬、つまり貼り薬がよく効きましょう」
油紙に薬を塗ったものを貼り付け上からサラシを巻いて端を縛った。
「まずはこれでよし。風呂はしばらく控えて、濡らした布で体を拭って過ごしなさい。放っておいても良さそうだが、二日後に一度見せにきなさい。今夜は熱が出るかも知れぬがそういうものなのでゆっくりと休みなさい」



「仁助、ちと働かねばならぬぞ、これは。」
件の桐野と名乗った若侍の傷を縫い、血止めと膏薬を施して帰したあと、元庵が言う。
「“薬”の話が出た折から、こうなることと腹を括っちゃあおりましたがね、先生。世のため人のためとはいえ思案の方は出来ておられるので?」
「それはまあアテがなくもない」
少し診療所を閉めるには早いのだが、こうなってはもはや医術の出番ではあるまいと、仁助は早々に表に休診の札を出した。



江戸の庶民は雀に例えられるくらいにとかくさえずっているもので、その関心は常に新しいもの珍奇なものに向けられていた。
此度彼らが関心を向けたものはとある藩邸の壁に貼られた紙であった。
そこにはいくばくの文言とふざけた絵が描かれており、騒ぎになって人混みが集まってすぐ藩士達によって剥がされてしまった。それでおさまらないのが、生き馬の目を抜く江戸の街である。めざとい者ははそこに貼られた紙に着目し素早く模写をして持ち帰り、瓦版屋に話を売る者、模写した内容を書き写して売る者、さまざまにいた。
たとえば髪結床で客が床の亭主に話す。
「これはつまり判じ絵になってて要はどこかの藩邸でお殿様が留守の間に好き勝手をやってるお侍がいるって話かい?」話を振られた亭主も応える。
「それだけじゃあねぇや、武艦、あったろ、古いやつだがあれならどこのご家中かぐらいわかるはず」
当初はだんまりを決め込んでいた苅野藩も噂が広まるにつれ、手を拱いているわけにもいかず、留守居役を他の者に変え、公儀大目付に届け出てひとまずの沙汰やみとなった。



「先生の『貼り薬』、仰った通りの効き目でございました。拙者、感服仕りました」
あれからひと月、すっかり脚も癒えた若侍、桐野が菓子を持って訪ねてきた。
「それより桐野様、疑われなさらなかったんで?」
茶を出しながら仁助が問う。
「疑われはしましたが、あの脚でございましたのであの高さに貼るのは無理であろうと早々に疑いは晴れ申した」
「それは良うございました」
桐野の表情から険が取れ、張り詰めたものがなくなったことに元庵も安堵する。
「それで、留守居役を外してもご家中で問題になるような事はなかったのでございますか?」
「あまりに御府内にて噂になったため、各藩の留守居役も鳴りをひそめております。事情が事情というところもあり、新しい留守居役様もお役目に障りは無いようにてございます。一件落着というところなのですがーーーー」
「やはりあの……」
仁助も言葉を濁す。
苅野藩の一件は片付いたのであるが、噂になって盛り上がりを見せた故にそのやり口を真似るものが続出し、諸藩の藩邸ばかりか旗本屋敷や大店でも内部事情を絵解きにして貼り出されるようになったのだ。曰く、この店の店主は女中に手を出しているだの、番頭のなにがしは頭の黒いネズミである、つまり店の品物をちょろまかして横流ししているだのーーーー。
「いくら効くからと言って薬ばかり頼るのも良く無いのですがねぇ」
元庵も流石に頭をかきながらそう言った。
江戸の街はまだしばらく、薬の効き目が続きそう、そう診立てる元庵であった。<完>